このページでは、糖尿病専門医が「糖尿病とはどんな病気か?」について、全10回にわたってわかりやすく教えます。
細かいところは省いて、とにかく大まかなイメージをつかんでいただくことを目的としています。
前回は合併症を未然に防ぐ、もしくは悪化を防ぐためにするべきことについて学びました。
今回は腎臓の合併症である糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)(または糖尿病性腎臓病(とうにょうびょうせいじんぞうびょう)とも呼びます)について解説します。
そもそも、腎臓って何をしているの?
腎臓は主に2つの仕事をしています(他にもいくつかありますが、ここでは省略します)。
からだにたまったゴミを尿(おしっこ)に捨てる
皆さんが家で過ごしているとゴミ箱にゴミがたまるように、体の中にもさまざまなゴミがたまってゆきます。
このゴミを尿として体の外に捨てるのが一つ目の仕事です。
からだの水分、塩分のバランス調節
皆さんが暴飲暴食した時に体にたまった余計な水分や塩分を尿に捨てたり、汗をかき過ぎて水分が不足した時に尿を減らして体がひからびないようにしたりするはたらきもあります。 つまり、体の水分や塩分のバランス調節が二つ目の仕事です。
腎臓が悪くなるとどうなる?
当然からだじゅうにゴミがたまり、からだの水分、塩分の調節がうまくできなくなります。
からだのあちこちにゴミがたまると疲れやすくなったり食欲が落ちたり、たまったゴミが心臓に悪さをして心臓が突然止まってしまうこともあります。
からだの水分、塩分の調節ができなくなると体はむくみ、血圧も高くなります。
腎臓がほとんどはたらかなくなってしまうと、人は生きてゆくことができません。
このため、腎臓のかわりにからだのゴミを取り除く治療として人工透析(じんこうとうせき)という治療か、腎移植(じんいしょく)(ほかの人の腎臓をおなかに埋め込む手術)が必要になります。
人工透析(じんこうとうせき)をはじめる原因の1位は糖尿病
日本では腎臓がはたらかなくなってしまい新たに人工透析を始める人が毎年約4万人いますが、その原因の1位は糖尿病です。
そして、その割合は全体の約4割にのぼります(1)。
あなたの腎症はどのステージ?
腎症は1期から5期という5つのステージに分かれます(2)。
1期は腎症がまだ起こっていない状態、5期は腎臓がほとんどはたらいておらず、人工透析や腎臓移植をしなければ生きることができない状態です。
あなたがどのステージかを調べるためには、血液検査でeGFR(イージーエフアール)、尿検査で尿中アルブミン、という二つの項目をチェックします。
なお、尿中アルブミンは保険診療では3か月に1回しか測定できないため、数か月分の検査結果を調べてみてください。
ステージ | 尿中アルブミン | eGFR | |
良い | 1期 | <30 | ≧30 |
↓ | 2期 | 30-299 | ≧30 |
↓ | 3期 | ≧300 | ≧30 |
↓ | 4期 | 問わない | <30 |
悪い | 5期 | 透析中 |
まずは血液検査結果でeGFRをチェックし、30未満なら4期となります。
次に尿中アルブミンをチェックし、300以上なら3期、30以上なら2期で、30未満なら1期、つまり腎臓の合併症はありません。
ちなみに尿中アルブミンは3回チェックして2回以上オーバーしているときに「陽性」とします。
たとえば、eGFRが80で、過去3回の尿中アルブミンが15、45、20なら30以上が1回のみなので1期、40、25、50なら30以上が2回なので2期です。
症状がでるのはどの段階から?
では、腎症がどのステージになったら足のむくみ、体のだるさや食欲不振などの症状が現れるのでしょうか?
答えは、
3期後半から4期
です。
なかには4期でも症状がない人もいます。
つまり、症状が出始めた時点で腎症はすでにかなり悪化していることが多いんです。
早い段階でみつけるためには、尿検査・血液検査が欠かせないのですね。
糖尿病で腎臓が悪くなったあとの「2つの」パターン
糖尿病の治療がうまくゆかずに腎臓が悪くなった場合、1期から5期まで悪化して「人工透析が必要になる」というパターン以上に多いパターンがあります。
それは
「人工透析が必要となる前に亡くなってしまう」
というパターンです。
この原因としては、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)が多いとされています。
くわしい解説は省略しますが、心臓(や脳)の病気に腎臓が深く関わっているということで、専門用語では心腎連関(しんじんれんかん)といわれています。
例えば、イギリスで行われたUKPDS64という調査(3)では、はじめて糖尿病と診断された患者さんのその後の様子を約10年間チェックしています。
この研究によると、腎症が1段階悪くなる患者さんは毎年2%程度です。
一方、2期以上の腎症では毎年3-19%の患者さんが亡くなっており、その原因の多くが心筋梗塞や脳梗塞でした。
腎症が2期以上に悪化したら、心筋梗塞や脳梗塞になりやすいということですね。
そうですね。もし腎臓がダメージを受け始めたら、今まで以上に心臓や脳のチェックが大切ですよ。
一度悪化した腎症は元に戻る?
3期くらいまで悪化した腎症は治療次第で元に戻すこともできますが、完全に元どおりに戻すのは大変です。
可能であれば1期を保ち、もし2期になったら治療をいっそうしっかりと行うのが理想です。
腎症の治療(他の合併症と共通の治療)
腎症の悪化を防ぐためには何よりHbA1cを7%未満に下げることが大切です。
また、血圧もきっちりと治療することが大切です。
これらは糖尿病の他の合併症の治療と共通する部分です。
合併症全般の悪化を防ぐための治療については過去の記事を参照してください。
腎症ステージ毎の治療(糖尿病性腎症特有の治療)
もし腎症が2期以上の場合、血圧を下げるお薬の一種であるアンギオテンシン変換酵素阻害薬(へんかんこうそそがいやく)またはアンギオテンシン受容体拮抗薬(じゅようたいきっこうやく)というタイプのお薬を飲むと腎症の悪化を防ぐ、もしくは前のステージに戻すことができます(4)。
それって、血圧が下がるから腎症が良くなるということですか?
もちろんそういう効果もあるけれど、他の薬を使って同じくらい血圧を下げた場合と比べてもより効果があります。
また、血圧が高くない人が飲んでも効果があるという報告もあります。
つまり、このタイプのお薬自体に腎臓をまもるはたらきがあるということなんです。
じゃあ、1期の人が飲んだら2期になるのを防げますか?
そういう研究データも少しはあるけれど(5)、まだデータが少ないので今のところは2期になったらはじめることが多いですね。
また、糖尿病治療薬の中ではSGLT2阻害薬(えすじーえるてぃーつーそがいやく)(6)やGLP-1受容体作動薬(じーえるぴーわんじゅようたいさどうやく)(7)というタイプのお薬は腎症の悪化を防ぐことができるといわれています。
もし腎症が2期以上なら、今使っているお薬にこれらのお薬を追加、もしくは切り替えを検討してもいいかもしれません。
もしあなたの腎症が3期または4期の場合、食事中のたんぱく質(肉や魚、大豆、乳製品などに多く含まれています)を減らすことで腎症の悪化を防ぐことができるかもしれません。
ただし、このようなデータはまだ少なく、効果を疑問視する声も多いため昔に比べるとあまり制限しないようになっています(8)。
食事中のたんぱく質をどのくらい減らせばよいかは体格によっても異なるため、かかりつけの医療機関でチェックしてもらいましょう。
以上、今回は糖尿病性腎症について説明しました。次回は糖尿病網膜症についてです。
- 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況
- 糖尿病. 2014;57(7):529-534
- Kidney Int . 2003 Jan;63(1):225-32
- Lancet. 2015 May 23;385(9982):2047-56
- N Engl J Med. 2011 Mar 10;364(10):907-17
- N Engl J Med. 2019 Jun 13;380(24):2295-2306
- N Engl J Med. 2017 Aug 31;377(9):839-848
- 糖尿病診療ガイドライン2019. 2019:145-167
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