このページでは、糖尿病専門医が「糖尿病とはどんな病気か?」について、全10回にわたってわかりやすく教えます。
細かいところは省いて、とにかく大まかなイメージをつかんでいただくことを目的としています。
前回は合併症がどんなものであるかということについて学びました。
今回は合併症を未然に防ぐ、もしくは悪化を防ぐためにするべきことについて解説します。
なお、前回お話しした通り合併症には色々な種類がありますが(「し・め・じ」と「え・の・き」でしたね)、今回はどの合併症に対しても共通して有効な治療法について説明します。
ひとつひとつの合併症についての詳しい解説は最後にあるリンクをご確認ください。
まずはHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を7%未満に
これまでの研究から、HbA1cが7%未満では合併症が悪化しにくいことがわかっています(1-3)。
したがって、まずは毎月のHbA1cを7%未満とすることが大切です。
この際、「HbA1c 7%未満を達成するための方法は問わない」という点がポイントです。
たとえば食事・運動を頑張って達成しても良いですし、飲み薬やインスリン注射を使っていても、結果としてHbA1c 7%未満が達成できればそれでよい、ということです。
もちろん食事や運動が上手にコントロールできないと、薬を使ってもまた悪化してしまうこともあります。
しかし、薬を使わない状態でHbA1c 8%がずっと続くくらいなら薬を使ってでも7%未満とした方が良いです。
もし食事や運動が改善されてHbA1cがさらに下がるようになったら、そこで薬を減らすかやめればよいでしょう。
大切なのは、HbA1cが高い状態をいつまでも放置しないことです。
HbA1cが高い状態を放置し続けると合併症が悪化してしまいます。
目安としては、2-3カ月から数カ月経ってもHbA1c 7%以上が続くなら治療を見直した方が良いとされています。
なお、患者さんによってはHbA1c 8%未満でもよい場合や、6%未満を目指した方が良い場合もあります。
HbA1cを下げるだけじゃない!合併症を防ぐために大切なその他の治療
糖尿病は「糖」の病気だから、HbA1c(または血糖値)を下げるしかないんですよね?
実は、HbA1cを下げる以外にも合併症の悪化を防ぐ方法があるんです。
合併症を防ぐための方法は、実はHbA1cを下げるだけではありません。
そして、糖尿病専門医ほどHbA1cを下げる”以外の”方法を上手に使って合併症を防ごうとしています。
このことを証明した有名な研究について、少し解説します(時間がない方は次のセクションへ移動してもらってもOKです)。
HbA1cを下げる以外の方法で合併症を予防した有名な研究として、デンマークにあるステノ糖尿病研究所という施設で行われたSteno-2スタディという研究があります(4)。
この研究は、糖尿病患者さん160人を80人ずつ2つのグループに分け、片方はHbA1cだけでなく血圧やコレステロールなどもガッチリと治療するグループ(ここでは「ガッチリ治療群」と呼びます)、もう片方はHbA1cや血圧、コレステロールなどをほどほどに治療するグループ(「ほどほど治療群」と呼びます)に分けて、8年間で合併症がどのくらい起こるかを調べています
じつは、この研究の「ガッチリ治療群」で実際にHbA1cの目標を達成できた患者さんは約15%しかおらず、「ほどほど治療群」との差はわずかだったんです。
そんなに少ないということは、合併症が悪化した人は「ほどほど治療群」とあまり変わらなかったんじゃないですか?
ふつうはそう思いますよね。では、実際の結果を見てみましょう。
なお、大血管症と三大合併症についての説明は前回の記事を確認してください。
ちなみに、大血管症には心筋梗塞や脳梗塞などがあり、”糖尿病ではない人にも起きるけれども糖尿病患者さんではより起こりやすい合併症”です (「え・の・き」でしたね)。
三大合併症は細小血管合併症とも言われており、”糖尿病患者さんにしか起こらない合併症”です (「し・め・じ」ですね)。
「ガッチリ治療群」で大血管症になった人は「ほどほど治療群」の半分しかいませんね。三大合併症もだいぶ少ないです。
単にHbA1cを下げただけではこんなに差はつかないので、血圧やコレステロールなどをガッチリ治療したことが有効だった、と考えられているんです。
つまり、もし仮にHbA1cがガッチリ治療できなくても、血圧やコレステロールなどをガッチリ治療すれば、合併症が悪化するのをある程度は防げるということですか?
そうですね。
ただしHbA1cもガッチリ治療できれば合併症の悪化をもっとしっかりと防げるので、HbA1cを7%未満にコントロールすることは大切です。
その上で血圧やコレステロールもガッチリ治療するのが理想ですね。
ちなみに、HbA1cをガッチリ治療できた患者さんが15%しかいなかった理由としては、今と比べて良い糖尿病の治療薬が少なかったことや、糖尿病の治療が血圧やコレステロールの治療と比べると難しい、ということが関係しているかもしれません。
では次に、血圧やコレステロールをガッチリ治療する際の目標値について説明しましょう。
血圧は130/80未満(家庭では125/75未満)を維持
血圧の目標値は患者さんによって異なります。
一般的には(=糖尿病や他の病気がない人では)診察室で測った血圧で140/90未満、自宅で測った血圧で135/85未満というのが目標値です(血圧は診察室よりも自宅のほうが低めになることが多いです)。
しかし、糖尿病患者さんなどではよりしっかりと血圧を下げた方が良いとされており、診察室血圧で130/80未満、家庭血圧で125/75未満が目標となります。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は120未満、中性脂肪は150未満が目標
「悪玉コレステロール」としても知られているLDLコレステロールも患者さんによって目標値が異なります。
糖尿病や他の病気がない人では140未満、人によっては160未満が目標ですが、糖尿病患者さんでは120未満が目標です。
ただし、狭心症や心筋梗塞を起こしたことがある糖尿病患者さんでは100未満が目標です。
さらに、狭心症や心筋梗塞に加えて脳梗塞(のうこうそく)、末梢動脈疾患(まっしょうどうみゃくしっかん)、慢性腎臓病(じんぞうびょう)、メタボリックシンドロームなどの持病がある人や喫煙中の方では70未満が目標です。
なお、中性脂肪はどんな方でも一律で150未満が目標です。
是非とも禁煙を
糖尿病患者さんがタバコを吸っていると死亡率が1.5倍高まり、心筋梗塞や脳梗塞も1.5倍起こりやすくなります(5)。
したがって、糖尿病患者さんは是非とも禁煙したほうが良いです。
タバコをやめると太るって言いますけど、太ったら糖尿病は逆に悪くなるんじゃないですか?
確かに「タバコをやめたら食事が美味しくなって太った」という患者さんや「口がさみしくてアメやお菓子の量が増えた」という患者さんもいますね。
でも、仮に体重が増えたとしても将来的な健康上のトラブルはタバコをやめた人の方が少ない、という研究結果があります。
だから、もしまだタバコを吸っているならすぐにでもやめるのがオススメです。
禁煙をすると、太ったりHbA1cが悪化したりする患者さんがいます。
しかし、仮にそうなったとしても禁煙するメリットのほうが大きいといわれています。
つまり、
タバコの害>>>禁煙によって太ることの害
ということです。
どうしてもタバコをやめられない人は、ニコチン依存症になっている可能性があります。
この場合は自力で禁煙できないことが多いと言われています。このような場合には禁煙外来を受診してお薬(禁煙補助薬)を使って治療するのが良いでしょう。
鉄は熱いうちに打て(遺産効果について)
もしあなたが糖尿病と診断されてから日が浅いなら、チャンスです。
なぜなら、糖尿病と診断されてから最初の10年間HbA1c 7%未満を保てれば、その後さらに10年間は大血管症が起こりにくくなるからです(6)。
これを専門用語で「遺産効果(legacy effect)」というのですが、詳しくは今後別のページで解説します。
ホテルや飛行機を予約するときに「○ヶ月前から予約したら○割引き!」というキャンペーンをやっていますが、糖尿病の治療も早くから始めたほうがお得なんですね。
そうですね。
早い時期から治療をすると、動脈硬化の予防という「オマケ」がもれなく付いてくる、というイメージですね。
でも、既に糖尿病とわかってからだいぶ時間が経ってしまっている人の場合はどうなんですか?
あくまでオマケがないというだけで、わかった時点からできるだけ早く治療を始めれば合併症をちゃんと予防できますよ。
絶対にやってはいけないこと
私は患者さんにあれはダメ、これはダメと制限することはあまり好きではないのですが、それでも合併症の悪化を防ぐために「これだけはやめてほしい」と言えることがひとつあります。
それは、
「通院をやめてしまうこと」
です。
「え、そんなこと?」と思われる人もいるかもしれませんが、糖尿病の治療ではとても大事なことなのです。
前回お話しした通り合併症の症状が出るのは合併症がかなり悪くなってからで、それまではまったく症状がありません。
したがって、検査をしないと自分が知らないうちに合併症が悪化してしまっていることがあります。
HbA1c 7%未満がずっと続いていた患者さんでも、数年間検査をせずに放っておいた間にHbA1cが8-9%になり、気づいたら合併症が悪化していた!ということはよくあります。
もしあなたが現在通院をやめている状態なら、すぐに医療機関を受診するか健康診断を受けましょう。
「通院をやめていた医療機関にもう一度かかるのは気が引けるなぁ」という人や、「主治医とウマがあわないから別の医療機関を受診したい」という人は、こちらの記事を参照ください(coming soon)。
合併症を防ぐための目標値のまとめ
さいごに、目標値を表にしてまとめます(7)。
A1c、血圧(Blood pressure)、コレステロール(Cholesterol)をあわせて「ABC」で覚えてください。
HbA1c | <7%(人によっては<6 or 8%) |
血圧(診察室で測定) | <130/80 |
血圧(自宅で測定) | <125/75 |
LDLコレステロール | <120(人によっては<70 or 100) |
中性脂肪 | <150 |
タバコ | 禁煙 |
合併症各論へのリンク(coming soon)
以上、今回は合併症の予防と治療について説明しました。次回は糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)(または糖尿病性腎臓病(とうにょうびょうせいじんぞうびょう))についてです。
- N Engl J Med . 1993 Sep 30;329(14):977-86.
- Lancet . 1998 Sep 12;352(9131):854-65.
- Diabetes Res Clin Pract. 1995 May;28(2):103-17.
- N Engl J Med . 2003 Jan 30;348(5):383-93.
- Circulation. 2015 Nov 10;132(19):1795-804
- N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1577-89.
- 糖尿病診療ガイドライン2019. 2019:21-30
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